わくらば文庫

本のある暮らし

渡辺優『ラメルノエリキサ』 ─ 自分を愛するということ

第28回小説すばる新人賞受賞作にして、渡辺優さんのデビュー作。

夜道で通り魔に切りつけられた女子高生・小峰りな。

りなは犯人が残した「ラメルノエリキサ」という謎の言葉を手がかりに、復讐のため犯人探しを始めるが…。

ストーリーを一言で表すと

「通り魔にあった女子高生の華麗なる復讐劇」

タイトルでもある「ラメルノエリキサ」の意味も気になるところですが、本作最大の魅力は、主人公・小峰りなのキャラクターではないでしょうか。

私は自分が好きだから、大切な自分のためにいつでもすっきりしていたい。復讐とは誰かのためじゃない。大切な自分のすっきりのためのもの。(本文p.6より)

誰かのための復讐ではなく、自分がすっきりするための復讐。非常にわかりやすい動機です。端的で素晴らしい。

ハンムラビ法典*1を敬愛し、自分のための復讐に執念を燃やす「小峰りな」という人物には、読者を物語に引きずり込む力があります。

些細な不愉快事でも、自分が害されたなら、復讐でケリをつける。

自己中心的で、型破りな性格の持ち主ですが、カッコイイんです。読んでいて気持ちが良い。

彼女の強さや行動力、そしてその礎となっている自己肯定力には、嫌悪感ではなく一種の憧れを抱いてしまいます。

復讐という重くなりがちなテーマで、ここまでの爽快感を出せるのはお見事です。

 

現実では、自分を好きになれなかったり、ありのままの自分を出せないことも多々あると思います。

だからこそ、どこまでも自分を貫き、読者を振り回してくれるりなちゃんに、堪らなく惹かれるのでしょう。

自分を顧みることは勿論大事ですが、どんなときでも自分は自分の味方でいたいし、自分を大好きでいたい。そんな風に思える素敵な一冊です。

そして、たとえ私を本当に愛する人がこの世に誰もいなかったとしても、私は私を愛している。(本文p.186より)

*1:「目には目を、歯には歯を」の同害同復法で有名なハンムラビ法典は、世界最古の法律の一つです。